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札幌地方裁判所 昭和43年(ワ)1862号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕二、そこで、本件買収処分が重大かつ明白な瑕疵のある無効な処分であるか否かを判断する。

1 自創法九条関係

(1) 本件買収処分について買収令書(以下、単に令書という。)の交付がなく、右交付に代つて公告(以下、本件公告という。)がなかされたことは、当事者間に争いがない。

(2) そこで、右公告が自創法九条一項但書の要件を充たさない無効なものであるか否かを判断する。

(イ) 被買収者が令書の受領を拒絶した場合は、右但書の「その他令書の交付をすることができないとき」にあたると解されるが、受領拒絶が明示的にされた場合でなくとも、明示的に拒絶された場合と同視できるような客観点な事情が存するときは、右但書に該当すると解する余地がある。もつとも、被買収者に対し、令書受領のため指定場所に出頭すべき旨の通知をし、被買収者がこれに応じないで出頭しなかつたというだけでは、予め被買収者に対し、令書を送付または持参するなどしてこれを呈示して被買収者をしてその内容を了知しうるような状態においていたような場合は格別、直ちに右但書に該当するということはできない。しかしながら、被買収者に予め令書を示していなくとも、被買収者において、当該買収そのものに反対している等、右令書の受領方の通知をした後公告前に改めて令書を送付または持参しても右令書の受領を拒絶するのであろうことが客観的に明白であるような事情が存在するときは、他に特段の事由のないかぎり、令書の交付をすることができないときに該当し、右令書の交付に代る公告は自創法九条一項但書の要件を充たすものと解すべきである。

本件においては、原告渡辺惇(以下、原告惇という。)が、釧路市農地委員会による令書受領のため出頭すべき旨の通知に対し、同委員会に出頭して右令書の受領を拒絶した事実は当事者間に争いがなく、また、<証拠>によれば、亡和吉は、本件買収処分の買収期日以前の昭和二二年五月ころから再三にわたり本件土地につき自創法五条五号の指定または農地調整法九条三項の承認を求める等の申請をし、札幌市農地委員会によりその都度右申請を却下されたことおよび本件土地について近い将来に買収が行われるであろうことは同人およびその妻である原告惇において十分了知していたのみならず、本件買収処分がなされる以前から右両名とも本件土地の買収に反対していたことを認めることができ、右のような事情からすると、原告惇が釧路市農地委員会に出頭して令書の受領を拒んだ事実があつた後に、改めて原告らに対し令書を送付または持参しても原告惇はもちろん、原告惇と同様亡和吉の相続人である他の原告らにおいてもその受領を拒絶するであろうことは客観的に明白であつたと認められるから、このような事情のもとになされた本件公告は、自創法九条一項但書の要件を充たすものであつて有効であると解すべきである。

(ロ) 次に、本件公告が、亡和吉の死亡後に同人名義でなされたことは当事者間に争いがないが、<証拠>よつても、札幌市農地委員会が右公告当時亡和吉のすでに死亡していたことを知つていたとの事実を認めることはできず、他にこれを認めるに足る証拠がないうえ、右公告当時本件土地の登記簿上の所有名義人が亡和吉であつたか或いは原告らであつたかについても証拠上明らかでなく、また、右公告がなされるまでの前認定の経緯と原告らが亡和吉の相続人であることをもあわせ考慮すると、亡和吉名義でなされた本件公告は、実質上原告らを相手方としてなされたものであり、しかも、原告らは本件公告によりそのことを了知できたということができるから、右の点につき本件買収処分を当然に無効ならしめるような重大かつ明白な瑕疵のあつたと解することはとうていできないといわねばならない。

2 自創法五号関係

(1) 本件土地が、本件買収処分当時右条号に定める「近く土地使用の目的を変更することを相当とする農地」であつたか否かを判断するに、<証拠>を総合すれば、以下の事実を認めることができる。

(イ) 大正一二年七月一日札幌市が都市計画法の適用を受けることになり、ついで、昭和二年一二月札幌市の都市計画区域が決定され、本件土地もその区域に入つた。さらに昭和一一年一〇月二日札幌市の都市計画街路として北一八条通り(巾員二〇メートル)、東八丁目通り(巾員二五メートル)の道路設置が決定された。

(ロ) 本件買収処分が行われた昭和二二年当時、本件土地の西側端を南北に札幌市から札幌村に通ずる道路があり、南側(札幌市街地側)約二丁位離れた箇所に北海道高等女学校(現在の大谷学園高等学校)があつたが、本件土地および付近一帯は農地であり、本件土地の近辺には農家が、二、三点在していたものの、本件土地より、北側(札幌村側)の方面にはほとんど人家もなかつた。

(ハ) 札幌市農地委員会は自創法の規定にもとづく農地買収計画を樹立するに際し、当初札幌市街地を中心として、相当広範な区域を一括して自創法五条五号の土地に指定すべく原案を作成したが、その後このような指定の方法は適切でないとの道庁農地部長の反対意見があつたなどのため一括指定をしなかつた。ところが、本件土地が右区域内にあつたところから、亡和吉が、右土地につき同条号の指定を求める申立を札幌市農地委員会にしたところ、同委員会は右土地が同条号に該当する農地でないとしてこれを却下し、亡和吉はさらに右決定に対し、本件土地が市街地であるとの理由をもつて右委員会に対し異議の申立をしたが、同委員会はその申立も却下した。

(ニ) 本件土地およびその付近一帯の状況は、本件買取処分がなされた後目立つほどの変化もみられなかつたが、昭和二八、九年ころ、亡和吉から買収した本件土地を含む一帯の土地内に北一八条通りが設けられ、以後、札幌市の急激な発展にともない、本件土地も急速に宅地化された。

以上の事実が認められ、成立に争いのない甲五八、五九号証中の右認定に反する部分は採し難く、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(2) ところで、自創法五条五号に規定されている買収除外地の指定は法規裁量事項であつて、当該農地が客観的にみて同条号に該当する土地であるにかかわらず右規定をせずに行なわれた買収処分は違法であり、ことに、当該農地がきわめて近い将来において非農地化を必至とするものであることが客観的に明白な場合には当該処分は無効であると解されるが、右(1)において認定した各事実によれば、本件土地は、とうてい右の場合に該当する農地であつたとは認められないから、同条号の指定をしないで行なつた本件買収処分が無効であるということはできない。

3 自創法一五条関係

(1) 本件土地のうち別紙物件目録記載の⑯および⑳の土地の一部が宅地であつたことおよび本件土地全体について一括して自創法三条により買収処分がなされたことは、当事者間に争いがない。

(2) <証拠>によれば、本件土地を含む本件買収処分の対象となつた土地は、右買収当時二九番地の甲と二九番地の二の二筆であつて、その全体の面積は一二反九二六であつたところ、そのうち宅地であつたのは、訴外斉藤勝雄の居宅床面積28.5坪および同アキノの居床面積37.5坪の各敷地部分のみであつたことが認められる。

(3) ところで、宅地を自創法三条によつて買収することは許されないが、右認定事実によれば、買収された宅地部分の面積は、本件土地を含む本件買収処分の対象となつた土地全体からみれば一割にも満たないわずかの部分を占めていたにすぎなかつたのであつて、このような場合は、右被買収地全体について自創法三条により一括して買取処分がなされたものであつても、右処分全体につき重大かつ明白な瑕疵があつたものということはできないからこれが全体として無効であると解することはできない。しかしながら、右宅地部分は、他の部分と不可分であつたとは認められないから、少くとも右宅地部分に関するかぎりでは、本件買収処分には瑕疵があつたといわなければならない。

三 そこで、本件売渡処分をなすにつき被告に過失があつたかどうかを考えるに、本件土地のうち、右宅地部分を除く部分については、前叙のとおり買収処分が無効であつたということはできないのであるから、売渡処分につき被告に原告ら主張の過失があつたということはできない。つぎに、右宅地部分についてみるに、一般に買収処分後に売渡処分を行なうに際しては、当然処分庁としては、もつぱら売渡手続の適法要件を遵守すれば足り、先行する買収処分が適法に行われたかどうかをいちいち調査すべき義務を負うものではないから、先行する買収処分に瑕疵があつたからといつて、これを看過してなされた売渡処分につき当然に処分庁に過失があつたものということはできない。そして、本件においては、<証拠>によれば本件売渡処分がなされた当時右被買収地の地目はすべて畑であつたことおよび右土地の買収計画書には右土地のうちに宅地が存在することを窺わしめるような記載が何もなかつたことが認められ、さらに<証拠>によると、札幌市農地委員会は、本件買収処分がなされる以前から亡和吉より再三にわたつてなされた本件土地に関する買収除外地の指定の申請をいずれも却下し、また、右買収処分後も、本件売渡処分に至るまでの間において、亡和吉または原告惇からなされた買収除外等の申請をいずれも却下した事実が認められ、他方、亡和吉または原告らが、本件売渡処分がなされるまでの間において、本件土地の一部が宅地であることを理由として買収処分に対し不服を申し出た事実を認めるべき証拠はない。してみると、知事としては本件買収処分に関して使用されまたは作成された諸資料を基礎として売渡の適否を判断するかぎりにおいては、本件土地の一部が宅地であつたことを知り得なかつたということができる。このような場合、売渡処分にあたつて、知事が専ら右の資料に基づいて被買収地がすべて農地であると判断し、その結果前記買収処分の瑕疵を看過したとしても、これをもつて、本件売渡処分をなすにつき過失があつたと認めることはできない。

四 以上のとおりであるから、本件買収処分の無効にもとづき本件売渡処分をなすにつき過失があつたことを前提とする原告らの本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がないものといわなければならない。<後略>

(橋勝治 稲守孝夫 大和陽一郎)

<物件目録略>

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